室内栽培野菜の硝酸イオン

2015年12月6日 - 未分類

以下は、(独)農業・生物系特定産業技術研究機構,”野菜の硝酸イオン低減化マニュアル”,2006.からの抜粋です。

硝酸イオン(硝酸塩)は、食品添加物(硝酸ナトリウムおよび硝酸カリウム) として認められており、それ自体通常に摂取する程度ではヒトに害を及ぼすことはありません。しかし体内で還元されて亜硝酸イオンに変化すると、呼吸阻害症の一つであるメトヘモグロビン血症の原因となったり、発ガン性物質であ るニトロソ化合物に変化する可能性があるとも一部で指摘されています。
食物由来の硝酸イオンのうちどの程度亜硝酸イオンに転換されるのかは、はっきりとしておりませんが、摂取したおおよそ5%が亜硝酸イオンに変化するという報告もあります。そこで、その摂取量は少ない方が望ましいとして、FA O/WHO合同食品添加物専門家会合(JECFA)では1995年に添加物である硝酸ナトリ ウムの1日許容摂取量(ADI)を体重1kg当たり5mg(硝酸イオンとして3.7mg) としました。これをもとにEUでは1997年にホウレンソウおよびレタス、サラ ダ菜類について硝酸イオン含有量の上限値を定めました。しかしJECFAは「野 菜は様々な機能性を有しており、これから摂取する硝酸イオンの量と添加物由 来の硝酸イオンに対して定めているADIを直接比較したり、これをもとに野菜の硝酸イオンの上限値を設定することは適切でない」との見解を示しております。従って現時点で我が国において野菜中の硝酸イオン濃度の上限値を定める ことは困難であると思われます。
しかし、現在我が国で生産されている野菜、特に葉菜類の硝酸イオン濃度は比較的高い傾向にあります1。五訂日本食品標準成分表のデータによれば、野菜125品目のうち半数の62品目が硝酸イオン濃度が1000ppm以上であり、22%の27品目で3000ppmを越えている。ヒトにとって硝酸イオンは摂取する必要はなく、 野菜中の硝酸イオン濃度を低く抑えることは、より安心であることは間違いありません。

硝酸塩とは、硝酸ナトリウム(NaNO3)や硝酸カリウム(KNO3)などのように、硝酸(HNO3)の水素イオン(H+)が金属などの陽イオンと置き換えられたもので、 溶液中や動植物の体内では陽イオンと硝酸イオンに電離した状態で存在しています。ここで問題となるのは陽イオンの方ではなくて硝酸イオンだけです。また、含有量をあらわす場合も、「硝酸塩」ですと陽イオンの種類によってその 値が変わってくるので、ここでは、硝酸イオンと記述しています。

窒素は、植物体の構成や物質代謝などに関わるアミノ酸、タンパク質、核酸などを構成する要素であり、非常に重要な元素であります。また、窒素の施用 量の多少によって植物の生育が大きく左右されることは周知のことです。
野菜は通常この窒素を硝酸イオンの形で根から吸収します。吸収された硝酸イオンは酵素の働きにより亜硝酸、アンモニアへと還元され、さらにグルタミンのアミノ基として取り込まれ各種のアミノ酸へと変換されていきます。
野菜の場合、この一連の反応の中で、硝酸還元酵素(NR)の働きにより硝酸イオンが亜硝酸へと還元される反応が律速段階となります。通常の栽培条件では、野菜が吸収する硝酸イオンの量は亜硝酸へと還元される量よりも多く、 余った硝酸イオンは野菜中に蓄積されることとなります。
ヒトが摂取する硝酸イオンは、そのほとんどが野菜由来であるといわれています 。硝酸イオン自体は直接人体に害を及ぼすことはありませんが、ヒトにとって全く必要のないものであり、体内で還元されると悪影響を及ぼす恐れが あることも一部で指摘されています。このような観点から野菜中の硝酸イオンを減らす方が望ましいことになります。
野菜中に硝酸イオンが蓄積されるのは、吸収される硝酸イオンの量が亜硝酸に還元されるよりも多いからなので、野菜中の硝酸イオンを減らす方法としては、
(1)硝酸イオンの還元速度を速める
(2)硝酸イオンの過剰吸収を抑える
(3)栽培品種の選択
などが考えられます。

(1)硝酸イオンの還元速度を速める
硝酸イオン濃度は、昼間低く夜高い日周変動となっています。一旦生成したNRタンパク質が夜になると減少するのは、夜間にNRタンパク質がリン酸化されることにより分解が促進されるためです。 光強度と生育温度を変えたコマツナの水耕栽培の試験から、光強度が強く生育温度が低いほど、NR活性が高くなり硝酸イオン濃度は低くなることも明らかとなりました。

これらの結果から、NR活性を高めて硝酸イオンの還元速度を上げ、硝酸イオン濃度を下げるためには、 光合成効率を高める光照射方法が重要であると言えます。

(2)硝酸イオンの過剰吸収を抑える
野菜の収量、品質を落とさないよう、必要かつ充分な量、即ち生育に必要な量は確保し、かつできるだけ少ない量の窒素を含んだ養液を使うことが重要になります。

(3)硝酸イオンの蓄積が少ない品種を選択する 同一条件で栽培しても硝酸イオン濃度が高い品種と低い品種があります。したがって品種選択も硝酸イオン濃度低減化の一つの方法となります。
出展 https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/shousanmanual.pdf

ここまで。DSC_2913

水耕栽培の場合には、収穫の1週間前に、硝酸態窒素が入っていない養液に変えることで、植物中の硝酸イオンを減らすことができます。養液中に硝酸態窒素がなければ、植物体内の硝酸イオンが入ってこず、植物体内にある硝酸イオンは、光合成により減少していきます。植物は、養液中の窒素成分は、完全になくなるまで吸収するので、収穫前には、窒素成分がなくなる程度の量に設定することで、硝酸態イオンを少なくすることができます。
また、硝酸含有率と糖含有率の関係は、負の相関関係にあり、硝酸を低減化することによって糖含有率を高めることができます。植物体中の硝酸イオン含有率の目標値は300mg/100gです。
ハイポネックス500倍希釈養液によるロメインレタスの室内栽培では、野菜の硝酸イオン濃度は32.9mg/100gであり、目標値の約1/10であった。室内栽培では、硝酸イオン濃度は容易に低減することができることが分かりました。硝酸イオンが低減すると、糖やビタミンが増加することも報告されています。

試料名「第6区参照区(養液の素栽培) No.21」
栽培品種 グリーンロメイン
亜硝酸根 検出せず (下限 0.002g/kg(0.2mg/100g))
硝酸根 0.329g/kg (32.9mg/100g)

受付No.5223
試料名「第6区参照区(養液の素栽培) No.23」
栽培品種 グリーンロメイン
報告値
水分     95.4 g/100g
蛋白質    1.2  g/100g
脂質       0.1   g/100g
炭水化物    2.3 g/100g
灰分      1.0  g/100g
エネルギー   15  kcal/100g

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